DSCとは?測定原理と分かること
示差走査熱量測定(DSC)ってどんな測定法なの?測定原理やDSCで何が分かるのかについて解説します
DSCとは?
示差走査熱量測定(DSC, Differential Scanning Calorimetry)は,熱分析の中で最もよく使われている測定手法の一つです.エンタルピー(熱量)や比熱容量の変化を計測します.
グラフの縦軸は「ヒートフロー」
DSCでは,ヒートフロー(熱流)をグラフの縦軸として表示します.ヒートフローは,単位時間あたりにどれだけエネルギーの出入りがあるのかを表している量です
ヒートフローの単位は,W(ワット),もしくは重量で割ったW/gです.
W=J/sですので,上記のヒートフローの意味合いから考えると納得できますね.
ヒートフロー変化を時間積分すると,単位がJ(ジュール)のエンタルピーを出せるわけです.
DSCにおける2種類の測定方式
「DSCには2種類の方式がある」と聞いたことはないでしょうか?
どちらもサンプルのエネルギーの出入りを基準物質(リファレンス)に対する差として計測しています
熱流束DSC
温度を調節されたプログラムにしたがって変化させながら,試料と基準物質の温度差を検出し,ヒートフローに換算
入力補償DSC
温度を調節されたプログラムにしたがって変化させながら,試料及び基準物質の温度が等しくなるように両者に加えた単位時間当たりの熱エネルギーの入力差(=ヒートフロー)を計測
TA Instrumentsの中では,Discovery シリーズのDSCは熱流束タイプ,タンパク質・バイオ用のNano DSCは入力補償タイプのDSCです.
DSCの構造と測定原理
熱流束DSCの構造
DSCセル
サンプル(試料側),リファレンス(基準側)の温度センサーが一つの炉内に配置している構造です.
この2つの温度センサーの温度差を検出し,ヒートフローに換算しています.
炉はコンパクトで温度制御に優れた部材と構造になっています.
TA InstrumentsのDSCには,サンプルとリファレンス以外にもTzeroセンサーというセンサーがあります.
Tzeroセンサーは,抜群のベースラインとより正確なヒートフロー計測を実現するTA独自の技術,Tzeroテクノロジーで重要な役割を果たしています.
サンプルパン
測定試料はパンと呼ばれる測定容器に入れて測定します.
アルミニウム製の使い捨てパンが広く用いられていますが,サンプルや測定条件に応じて様々な種類のパンを取り揃えています(動画:サンプルパンの選択と試料調製)
サンプルセンサー上に測定試料を入れたパン,リファレンスセンサー上に空(もしくは不活性な基準物質を入れた)パンを置き測定します.
測定原理:熱流束DSC
氷の融解を例として,下の模式図を使って考えてみましょう
① 0℃より低温では,ファーナス(炉)の温度(T0)が上昇すると,リファレンス(空パン)もサンプル(氷)の温度もファーナス温度に追随して上昇していきます
② 0℃で氷の融解が開始すると,ファーナス,リファレンスの温度はこれまでと同じ速さで昇温しますが,氷が融解するためにはエネルギーが必要である(吸熱する)ため,サンプル側の温度は融解が完全に終わるまで0℃一定となります.
③ 融解が完全に終了してサンプルが水になると,再びファーナス温度に追随してサンプル温度も上昇していきます
つまり,融解による吸熱によってサンプル‐リファレンス間に温度差(∆T)が生じていて, ∆Tの変化は融解の場合ピーク形状を取ることが分かります.
熱の出入りで温度差が生じることを利用して,温度差を較正することによりヒートフローに換算しています.
下図では,DSCで測定される主な熱イベントとDSCサーモグラムへの現れ方を模式図的に示しています.
DSCで何が分かる?観測できる事象は?
ガラス転移
ステップ(階段)状の変化としてDSCサーモグラムに現われます
詳しくは,TAインスツルメントジャパンのイプロスサイト,YouTubeチャンネルで解説しています
結晶化
発熱ピークとして現れます.
降温測定で評価することが多いですが,結晶化度の低い結晶性サンプルの場合,ガラス転移より高温側で結晶化ピーク(冷結晶化)が現れることがあります.
特に結晶性高分子については,TAインスツルメントジャパンのイプロスサイト,YouTubeチャンネルで解説しています
融解
吸熱ピークとして現れます.
ピークの補外開始温度(Onset温度),ピークトップ温度,ピーク面積値などをサーモグラムの解析で評価します.
ピーク面積値は融解熱です.100%結晶の融解熱が既知の物質であれば,融解熱から結晶化度を算出することができます.
特に結晶性高分子や結晶化度については,TAインスツルメントジャパンのイプロスサイト,YouTubeチャンネルで解説しています.
融解熱の文献値はこちらでシェアしています.
硬化・架橋などの反応
主に発熱ピークとして現れます.
熱硬化性樹脂のDSCでは,昇温過程(横軸:温度)もしくは温度一定(横軸:時間)で硬化発熱のピークをモニターします.
熱硬化性樹脂・光硬化性樹脂のDSCについては,TAインスツルメントジャパンのイプロスサイト,YouTubeチャンネルで解説しています
酸化・分解
サンプルの酸化は発熱側へのヒートフロー変化が観測されます.
酸化特性を評価する際には,測定雰囲気を窒素から酸化雰囲気にスイッチして,酸化雰囲気下での測定を実施します.
サンプルの分解もヒートフロー変化を伴います.まず発熱方向に変化することが多いですが分解生成物が揮発性場合,吸熱方向の変化が観測されることもあります.
サンプルの分解は,炉内やセンサーの汚れの原因となりますので,基本的には分解より低温での測定をお勧めしています.