キーワード:等温カロリメトリ―、TAM、熱流、リチウムイオンバッテリー、電解質添加剤、寄生熱
MC162-JA
要約
等温マイクロカロリメトリーは、電解質添加剤や添加剤の組み合わせがリチウムイオンバッテリー電池で発生する寄生反応に及ぼす影響を充電状態の関数として決定する簡単な手法です。本研究では、12台のマイクロカロリメータ―を備えた高分解能TAMマイクロカロリメータ―を使用して、電解質添加剤の濃度だけが異なるリチウムイオンバッテリーの熱流を測定し、定量的に比較しました。この場合、その他すべては同一であり、熱流で測定される差は、添加剤によって発生する寄生熱の違いによる直接的な結果です。これは充電状態の関数として示され、電解質添加剤が正確にどこで、またどの程度寄生反応を減少させているのかを判断する簡単で迅速な手法を提供します。論証的な例として、LiCoO2/黒鉛電池上のさまざまな濃度のビニレンカーボネート (VC) の影響を調べます。VCがある場合、3.9Vを超えると寄生反応が減少し、充電状態が増加するにつれこの反応は減少を続けることがわかりました。ここに記載する手法とデータは公開されており(参考文献1)、許可を得て複製しています。Copyright 2013, The Electrochemical Society.
はじめに
リチウムイオンバッテリーは、高エネルギー密度と長寿命が要求される用途でますます多く利用されています。電解質添加剤の使用は一般的な手法であり、これによってカレンダー寿命とサイクル寿命が延び、電解質と電極材との間に発生する寄生反応が減少することがわかっています。しかしながら、これらの添加剤がどのように機能し、正確には充放電サイクルのどこでメリットとなるのかはあまり理解されていません。したがって、特定の添加剤または添加剤の組み合わせの電圧依存のメリットを決定できることは明らかに意義があり、このような添加剤がどのようにリチウムイオンバッテリーの寿命を延ばすかの理解に大いに役立ちます。
最近では、等温マイクロカロリメトリ―技法が電気化学的測定と組み合わされており、これを使用して複数のリチウムイオン化学の熱挙動が調査されていま
す2-9。さらに最近になって、Krauseら10はこの技法を使用して熱出力へのさまざまな寄与を分離し、寄生エネルギーを分離する方法を示しました。ここでは、この技法を使用して添加剤濃度のみが異なる電池間の熱流を、定性的にまた定量的に比較しました。この場合、その他すべては同一であり、熱流で測定される差は寄生熱の違いによって発生しています。これは充電状態の関数として示され、添加剤が電解質と電極材との間で発生する寄生反応を正確にどこで、またどの程度減少させているのかを判断する簡単で迅速な手法を提供します。論証的な例として、LiCoO2/黒鉛電池上のさまざまな濃度のビニレンカーボネート (VC) の影響を調べています。VCは、電池寿命を延ばすことが実証されている、幅広く使用されている電解質添加剤です11。
実験
機械製の225 mAh LiCoO2 (LCO) /黒鉛パウチ電池(Pred Materials Co.から入手)は乾燥状態で供給されました。パウチには、エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート(Novolyte Technologies社製、現在はBASF)が3:7の1M LiPF6で構成された0.75 gの電解質を、さまざまな量のVC(Novolyte Technologies社製、現在はBASF)添加剤(重量0%、0.5%、2%、4%)と共に入れ、真空シールしました。電極を20分間、重力の50倍で加速して遠心的に濡らしました。その後電池が形成され、24時間40ºCで1.5Vに保持され、その後2 mAで10時間充電し、15 mAで4.2 Vに充電し、15 mAで3.775 Vまで放電しました。その後電池を切り開き、生成された気体を放出させてから再度シールしました。マイクロカロリメータ―内での電池の充放電は、Maccorシリーズ4000の自動化検査システム (Maccor Inc.) を使用して実施しました。
等温熱流マイクロカロリメトリ―測定は、TAMカロリメータ― (TA Instruments-Waters LLC) を使用し、不確実性< ±1.0 μW、温度40.0ºCで行いました。装置較正と操作の詳細、背景情報、手法は、参考文献10にて詳しく議論されています。装置の雑音レベルは約10 nW、ベースラインドリフトはここで実施した実験期間を通して500 nW未満でした。
結果および考察
サイクル中の熱流
図1は、マイクロカロリメータ―内で試験した電池に使用されるサイクリングプロトコルの代表的なセグメントです。図1aは測定された熱流を、図1bは対応する電圧プロファイルを示しています。わかりやすくするため、対照電池(VCなし)のデータと4%のVCが含まれている電池のデータを示しています。サイクリングプロトコルには2つの明確なセグメントがあり、図1ではこれを縦の点線で強調しています。これらは以下のとおりです。
- 2 mA(4.2 Vまで充電し、3.9 Vまで放電)を2回、4.2 Vまで充電
- 4.2 Vで開始し、開放回路で100時間
サイクル中に測定された電池の熱流は、エントロピー、分極、正極と負極両方からの寄生熱の3つによるものです12。エントロピーと分極の寄与は電流依存項ですが、寄生熱は電流に依存しないと考えられます。黒鉛とLCOでは、どちらも充放電中にエントロピーが大きく変化し(黒鉛の転移13とLCOの秩序無秩序転移14を行う)、これが図1aの熱流プロファイルの可逆構造の主な原因となっています。これらの特徴は、参考文献7と9で詳しく議論されています。分極は、充放電の両方において、ほぼ一定した発熱を起こします。シグナルの残りは、寄生熱流によるものです。
本実験で使用した機械製のパウチ電池は、添加したVCの量が違うだけで、名目上同じものです。この場合、電池間の容量のバラつきは1%未満でした。十分に小さな電流であれば、エントロピーと分極の寄与はすべての電池に対して同一となります。つまり、熱流における唯一の違いは寄生熱の違いによるものとなります。図1aは、4%のVCを含む電池の熱流が対照電池の熱流よりも小さいことを示しています。明確には示されていませんが、VCを含むすべての電池は、対照電池よりも熱流が低くなっています。熱流間の違いは充電状態の関数として変化し、VCや他の添加剤が利益をもたらす寄生反応の電圧依存性を、等温マイクロカロリメトリ―が簡単に判定できることを示しています。対照を4%のVCと比較しているこの例では、VCが寄生反応を著しく減少させました。
このような小電流でも、パウチ電池から放出される熱流はTAMマイクロカロリメータ―の雑音レベルよりも2から3桁大きいことに注意してください。電池間を非常に正確に区別できるのはこのためです。
図2は、図1で説明するサイクリングプロトコルの領域1において電圧の関数として熱流を示しています(2 mAで3.9~4.2 V)。図2aは、VC量の増加に伴う電池の最初の2 mAの充放電中の熱流を示しています。電圧の増加に伴い、VCの添加が熱流を減少させたことは明らかです。4.1 Vを超える電圧では特に劇的です。
図2bは、VCを含む電池の熱流から対照電池(VCなし)の熱流を引いて得られた差を電圧の関数として示しています。この差は、添加剤による寄生熱の減少の優れた尺度となります。全電圧範囲において、VCを含む電池の熱流は減少していますが、約3.98~4.1 Vからは、LCOにおける秩序無秩序転移を通過することによる熱流プロファイルの曲線のわずかな差によって、この差が曖昧になります。熱流の減少は電圧の上昇と共にますます顕著になり、VCが正極で発生する寄生反応を減少させていることを示しています。0.5%のVCでも4.2 Vで熱流を54 μWと大きく低下させ、2%と4%のVCは4.2 Vでの熱流をそれぞれ132 μWと148 μW低下させました。添加剤濃度の関数としての寄生熱の減少は、非線形です。2%のVCおよび4%のVCを含む電池の熱流における違いは非常に類似しており、この電池化学では、2%を超えるVCを添加してもあまりメリットは得られないことを示唆しています。
図2cおよび2dは、電圧の関数としての熱流と、3.9 Vと4.2 Vの間の2回目の充放電に対応する差のプロットを示しています。全電圧における4つの電池すべての熱流は多少減少し、熱流の違いも少なくなりました。図2eおよび2fは、3回目と最後の充電に対する同じプロットを示しています。熱流と熱流における違いは再び減少しています。サイクル数の増加に伴い、寄生反応は予想通り減少しました。3回目の充電後、0.5%、2%、4%のVCの添加は4.2 Vでの寄生熱流を対照電池と比較してそれぞれ15 μW、54 μW、60 μW低下させています。
開放回路での熱流
図3は、同じ電池セットが4.2 Vまで充電された後(図1のステップ2)に、開放回路条件で放置されたときの熱流の放出を示しています。電池には電流が一切印加されないため、開放回路の熱流を測定することで寄生反応による熱流の直接測定が得られました。VC量の増加に伴って寄生熱の顕著な減少が観察され、これは図2に示した結果と定性的に一致しています。電池間の熱流の差は、開放回路では時間とともに減少します。たとえば、開放回路で5時間経過した後、対照と4%のVCとの間の熱流の差は66 μWですが、100時間後はその差が31 μWに低下します。これは、図2で見られたサイクル(つまり時間)の増加に伴う寄生熱の減少と一致します。
おわりに
等温マイクロカロリメトリ―は、あらゆる添加剤または添加剤の組み合わせで最も効果の高い電圧範囲を測定できる強力な技法です。この技法はまた、電解質添加剤を理解し、特定の電池化学や動作条件に対してどのように適切な添加剤の組み合わせを選ぶのがベストなのかを理解する取り組みを支援します。この技法を証明するものとして、LCO/黒鉛フル電池に対するさまざまな濃度のVCの影響を調べました。VCは高電位での寄生反応を劇的に減少させ、正極で発生する寄生反応が減少したことを示唆しています。
参考文献
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謝辞
本研究は、L.E. Downieと共著者K.J. Nelson、J.R. Dahn(カナダ、ノバスコシア州ハリファクス (B3H 4R2) のダルハウジー大学の物理学および大気科学部)がTA Instruments Student Applications Award Programの一環として寄稿しました。
著者らは、NSERC/3M Canada Industrial Research Chair in Materials for Advanced Batteriesの援助のもとでの本研究の支援に感謝します。LEDおよびKJNは、ダルハウジー大学のNSERC CREATE DREAMSプログラムからの資金援助に感謝します。著者らは、電解質溶媒および電解質塩を提供してくださったBASFのJing Li博士に感謝します。3MのDr. Larry Krauseとの有用な議論に感謝します。
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